排泄( Excretion )過程における相互作用

薬物の腎排泄は、糸球体濾過、尿細管分泌および尿細管再吸収の3つの過程に大別される。

a)糸球体濾過
糸球体では、血清タンパクに結合した結合形薬物は濾過されず、遊離形薬物およびその代謝物で水溶性が高く血清タンパク結合率の低いものが効果的に濾過される。したがって、糸球体濾過過程における相互作用において、蛋白結合率が高い薬物は併用薬を蛋白結合サイトから置換するので、併用薬の糸球体濾過を促進させる。

例えば、ワーファリンの糸球体濾過速度はフェニルブタゾンやクロフブラートなどの併用により促進される。



b)尿細管分泌
薬物の尿細管分泌は近位尿細管において能動的に行なわれるので、同じ輸送系に属する薬物はたがいに拮抗的に阻害を起こす。この機構はパラアミノ馬尿酸( p-aminohypric acid )で最初に明らかとなったのでPAH メカニズムという。

図7に示すように、メトトレキサートと非ステロイド性抗炎症薬のジクロフェナックを併用した場合、ジクロフェナックは尿細管の輸送系の担体に対して親和性が高いため、担体を占拠し、メトトレキサートの尿細管分 泌を阻害する。


米国で、メトトレキサート使用中にジクロフェナックの坐薬使用による死亡例がある。
図7
プロベネシッドとペニシリン併用ではプロベネシッドによる担体占拠により、ペニシリンの血中濃度は上昇する。

一方、塩基性薬物の尿細管分泌には上皮刷子縁のPー糖蛋白質が関与し、キニジン、ベラパミル、アミオダロンなどがジゴキシンの尿細管分泌を阻害し血中濃度を増加させる事例が知られている 。

表6には尿細管分泌における薬物相互作用をまとめた。



c)尿細管再吸収
薬物は遠位尿細管において、pH分配仮説に従って、非解離形薬物が受動的に吸収される。
薬物の尿細管吸収は Henderson-Hasselbalch の式に従う。

弱酸性薬物の場合..

尿のpHが低下すると非解離形薬物分子が増え、尿細管再吸収が促進される。
その結果、薬物の腎排泄は抑制され、血中薬物濃度の消失は遅延する。
尿pHが上昇すると、弱酸性薬物では薬物の解離形(イオン形)が増加する。
その結果、薬物の再吸収は低下するので、腎排泄の促進が起こる。

弱塩基性薬物の場合...まったくその逆になる。




尿のpHを酸性にする薬物として、
          アスコルビン酸、塩化カルシウム、塩化アンモニウム
尿のpHをアルカリ性にする薬物として、
酸水素ナトリウム、アセタゾラミド、クエン酸ナトリウム、酸化マグネシウムなど

表7に尿細管再吸収過程での薬物相互作用を示す。