吸収 ( Absorption ) 過程における相互作用

吸収における相互作用には、薬物間の複合体形成など物理化学的相互作用にもとづくものと、胃内容排出速度の変化など生理的要因によるものがある。

a)不溶性キレート形成
テトラサイクリンやニューキノロン系抗菌剤はAl3+, Ca2+, Mg2+, Bi2+, Zn2+, Fe2+ などの金属を含有する制酸剤と併用されると不溶性キレートを形成して吸収が大幅に低下する(図2、図3)。

ニューキノロン系抗菌剤を使用中に胃薬を併用する場合には、他の金属カチオンを含まない胃薬に代替するなど処方変更が必要である。
図2 図3
テトラサイクリンの吸収に及ぼす鉄剤の影響 ニューキノロン剤の吸収に及ぼす金属カチオンの影響
同様の相互作用がAl3+,Ca2+,Mg2+,Bi2+,Zn2+,Fe2+,ミルクでも起こりうる。 ニューキノロン剤は多価金属イオンを含有する制酸剤、鉄剤と併用すると不溶性キレートを形成して吸収低下する。
P.J.Neuvonenn et al.:Br.Med.J.,4,532(1970)より引用 K.Shiba et al.:Xenobio.Metab.Disp.3:71781988)を改変



b)イオン対形成による吸収阻害
高脂血症治療薬であるコレスチラミンは陰イオン交換樹脂で、分子内に陽イオン部分を有している。そのため、胆汁酸以外にもワーファリンやプラバスタチン、チロキシンなど陰イオン性薬物を吸着、これらの消化管吸収を阻害し、糞中排泄を増加させる。

ワーファリン服用中、コレスチラミン併用すると、血中濃度が低下し、血栓形成の危険性が増大する。
図4 コレスチラミンと弱酸性薬物のイオン結合


弱酸性薬物
弱酸性薬物
ワルファリン、ブラバスタチン、チロキシン、ペニシリンG、ジギタリス、テトラサイクリン、フェニルブタゾン等



c) 胃内容排出速度( gastric emptying rate:GER)
一般に薬物は胃より十二指腸、小腸で多く吸収される。従って、薬物が胃から腸へ送り込まれる速度、胃内容排出速度(GER)を変化させる薬物と併用されると、薬物の吸収は変動する。

ジゴキシン、リボフラビンは十二指腸の限られた領域でゆっくり吸収される。
GER を増加させるメトクロプラミドと併用すると吸収量は低下する。
プロパンテリンやアトロピンのような抗コリン作用薬は胃運動を抑制し、結果として GER を遅延するので、ジゴキシンやリボフラビンの吸収量を増加させる。
ジゴキシンやリボフラビン以外の通常の薬物では、GERが増加した場合、薬物の吸収速度は速くなり、吸収量は増加する。