研究テーマの概要

 患者背景を考慮した適切な治療すなわち薬物療法の個別化は臨床薬学の究極の目標の一つでもあります。すなわち本研究室では、患者個々の生理的状態の相違や個体内での変動、薬物相互作用等が薬物治療にどのように影響を及ぼすのかを、基礎・臨床の両面から臨床薬理・生物薬剤学的に明らかにし、その科学的な予測によって薬物療法を最適化することを研究テーマの基本としています。

研究活動の実際

 Modeling & Simulation (M&S)手法はテーラーメイド医療や分子設計など、薬学分野でも幅広く応用されております。本研究室ではこの手法を駆使して、医薬品使用時の副作用軽減、至適投与設計に寄与すべく研究を行っています。また、医薬品が吸収されてから排泄されるまでの過程には非常に多くの因子が関与します。本研究室では、様々な病態モデル動物を用いて、様々な生理的変化による薬物体内動態変動について検討を行っております。
 これらはすべて臨床現場との橋渡し研究を基本としています。すなわち、臨床においては、患者背景・生理的状態、併用薬剤、他の詳細なモニタリングにより、薬物動態に影響する因子の探索・毒性解析と定量化を多変量解析または母集団薬物動態解析法にて行い、基礎研究においては臨床でスクリーニングされた因子精査を目的とする薬物体内分布・輸送機構などに関わる薬物動態変動因子の病態モデル動物による評価系の確立、薬物動態との関連検討を行います。また、前述した目的を達成するために、これらの基礎・臨床相互フィードバックを行い、実際の薬物療法における様々な問題解決に向けて、科学的なエビデンスを供給しております。

現在進行中のプロジェクト(抜粋)

臨床研究

 現場の薬剤師に課せられた大きな使命の一つに、薬物治療の個別化・適正化があります。同じ医薬品でも背景の大きく違う患者さんに対して画一的な薬物療法を行う事は、もちろん望ましくありません。本研究室では神戸市民病院機構・大学病院などと連携を密に取り、薬物動態・母集団PK/PD解析等を中心として共同研究を行っております。
本学医療連携実行委員会(https://kobegakuin-yakugaku.jp/iryorenkei/about/)のホームページをご覧ください。

 薬物の臨床データ解析による薬物動態変動要因解明による投与設計の個別化
 ・Cyclosporine A, Tacrolimus, Vancomycin
 ・抗癌剤Cisplatinの毒性解析および毒性軽減法の提案
 ・脂肪乳剤の中性脂質をマーカーとした体内動態解析
 ・その他

基礎研究

 これらは臨床における薬物療法の問題点抽出より派生した課題であり、研究結果は臨床研究と相互フィードバックを行うことを念頭に実施しています。
 ・免疫抑制剤の動態特性を考慮したPKモデリングの検討
 ・抗癌剤の毒性解析によるPK/PDモデルの構築
 ・肝障害, 糖尿病, 高脂血症下における薬物動態変動
 ・低栄養, 骨髄抑制時における薬物動態変動