研究室の目的

   臨床薬物動態学研究室は2010年に開設したもので、現在ようやく軌道に乗りつつあります。薬物の適正使用には、その薬物が投与されてから、薬効を発揮し、体の外へ出て行くまでの道程を知る必要があります。しかしながら、その道程は様々な要因で患者毎に変化しています。すなわち、その道程の変化を予測できれば、それは臨床薬学の最大目標の一つである薬物投与設計の個別化につながります。薬物動態学は、臨床薬剤師による薬物療法のコンサルテーションに欠くことのできない知識であり、薬学の専門性を直接臨床に生かすことができます。当研究室では、薬物療法における問題点を薬物動態学的に基礎と臨床の両面から解明し、臨床現場へ新たなエビデンスを供給することで、薬剤師が医療に貢献する義務を果たすことを目的とします。

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――杉岡教授からのメッセージ――



  私は20年以上にわたり、薬剤師業務の傍ら、治療薬物モニタリング(TDM)を通じて、薬剤師による薬物治療適正化への貢献を模索してきましたが、薬物動態理論の臨床適用において必要なものは、臨床情報へのアクセス、医師や他の職種とのディスカッションと薬物治療学の知識であることを痛感してきました。実際に患者を“診る”こともまた重要であり、時には患者の安静度、嗜好品・間食の内容・程度、排便回数等々の情報は、薬物動態を大きく変動させる要因とも成り得ます。薬物療法の評価に必要な臨床検査、薬物療法を考慮した食事内容、栄養補給などの検討も加えて、薬物療法の適正化は、まさにチーム医療の中で成し得るものであり、薬剤師はその中心となって、認識の共有に努めるべきです。そのためには薬剤師は単なるテクニシャン・便利屋ではなく臨床家であらねばその地位向上、他職種からリスペクトされる存在にはなり得ません。臨床家とは、自らの経験・データの積み重ね、実験的治療や臨床研究により、臨床における新たなエビデンスを常に生み出し、それを供給することで医療の発展に寄与できる存在でもあります。しかしながら、現状では現場の薬剤師が臨床研究を行うに十分な人的・時間的余裕がないことは、自らの経験からも明らかです。大学薬学部臨床部門の使命は、現場との連携を密にし、日常生じる薬物療法における問題点を、医療チームの一員として共に解決できるような関係を構築することでしょう。
  本研究室のテーマは、薬剤師がエビデンスの単なるユーザーから、その構築者へなるべく道筋をつけることを念頭に置き、実際の医療現場に有用な研究成果を出すことを心がけています。本研究室の学生には、前述したように、薬剤師がエビデンスの構築者たる存在となるためには、知識ばかりでなく、どのようなスキルを身につけなければならないかを常に念頭に置き、それぞれのテーマに取り組んでもらっております。本研究室のテーマである、薬物療法における薬物動態学的考察、薬物速度論に基づく血中濃度プロファイルの解析などを駆使し、実際の臨床において自らの提案が奏功したときは、まさに薬学の専門性が直接臨床に役立つことを実感できる瞬間です。臨床能力とは、単なる既存の知識を振り回すものではないことを理解してもらうよう努力しています。

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